(1)主取(ぬしとり)とは
「セレクトセール2019」が終了した。
初日・1歳馬セールと合わせた2日間トータルでは、史上最高だった去年(2018年)の179億3200万円を上回る205億1600万円で、去年の金額を1割以上も上回る新記録となった。
1歳馬部門には239頭が上場され、222頭が落札された。落札率は92.9%。
当歳馬部門には216頭が上場され、194頭が落札された。
結果一覧を見ると、気になる言葉がある。
主取(ぬしとり)という聞きなれない文字だ。
これは2つのケースで用いられる。
(1)セリ取り引きで出場した馬に買い手がつかない。
(2)価格が販売者の希望価格に達しないとき、生産者が値段をつけて引き取る。
(1)のケースはセリに参加した買い手(主に馬主)が馬そのものにダメ出しをした。
(2)のケースは買い手がその馬を高値で買う価値が(費用対効果)がないと判断した。
ということで、いわば馬を見切ったことになる。
こうした主取馬は売れ残りと呼んでよい。
(2)過去の主取馬にはリアルインパクトが
それでは、セレクトセールに参加している馬主に相馬眼があるか?
これを考えるアプローチの1つとして、この主取馬がその後、活躍したかどうかを検証すれば答えが出る。
去年もこのブログで2009年のセレクトセールで調べた結果、のちにキャロットファームで募集されて、3歳で安田記念を勝ったリアルインパクトが1歳セッションで主取になっていたことを確認した。http://soumaryouzanpaku.net/2018/07/16/select-sale-5/
主取=売れ残りは、馬見の達人たちが見限った馬で、走らない馬、という先入観を持っていたので、やや意外な感じがした。
調べてみていろいろと発見があり、個人的に面白いと思った企画なので、今年は、2010年のセレクトセールの1歳セッションにおける主取馬のその後を調べてみた。
(3)主取になった馬のその後
主取で、販売者に引き取られた馬はその後どうなるか。
当然、生産、飼育にコストがかかったので、売らなければ生産者の手もとには赤字が残る。
だから、生産者としては何としてでも売ろうと試みる。
おもな販売ルートは以下のどれかの経緯をたどる。
①別の競走馬市場( 北海道オータムセール や 北海道オータムセール など)に上場される。
②庭先取引で個人馬主に買い取ってもらう
③1口クラブに出す
④生産者が馬主登録をしている場合、生産者が走らせる
⑤その他(おそらく死亡など消息不明のケース)
私たち1口馬主クラブ会員がもっとも関心のあるのは、③のケースの馬の消息だ。
これについては、あとでゆっくり見てゆくことにして、まずは2010年のセレクトセールの1歳セッションで主取になった馬たちのレースパフォーマンスから紹介してみたい。
(4)主取になった馬たちの競走成績
2010年のセレクトセールの1歳馬(2009年生まれ)セッションで主取馬合計42頭のうち、中央競馬に登録があった馬は33頭だ。そのレース成績の内訳は以下の通りだ。
①未勝利:16頭
②1勝:6頭
③2勝:4頭
④3勝:5頭
⑤4勝:1頭
⑥未出走:1頭
勝ちあがった馬が16頭。勝ち上がり率は44.4%となる。
同じ2009年生まれの1口馬主の主なクラブ馬の勝ち上がり率を書きだしてみる。
社台:60.9%、サンデー:56.0%、G1:70.0%
さすがに社台グループと比べると勝ち上がり率の44.4%は低いが、中小の牧場も参加しているセレクトセールで、しかも売れ残りの馬の勝ち上がり率としては、この数字は予想よりも高い。
競走馬市場の名門だけあって、この数字からセレクトセールの馬質の良さを伺えるのではないか。
(5)ダービー馬のオーナー猪熊広次氏はやはり相馬の名人だった
2010年のセレクトセールの1歳馬(2009年生まれ)セッションで主取馬合計42頭のうち、もっとも勝ち数が多く、賞金を稼いだ馬はブーケドレーヌの2009、競走馬名ニコールバローズ(父ゼンノロブロイ、牝馬)だ。
この馬は 2010年 北海道オータムセールに上場されて猪熊広次氏によって735万円で落札された。
ニコールバローズは小倉の2歳新馬戦(芝1200m)を川田騎手で快勝し、2歳重賞KBSファンタジーS(G3)5着や秋華賞トライアルのローズステークス(G2)7着にも出走した。
29戦4勝で獲得賞金6,185万円の成績を挙げた。
購買価格の8倍強の賞金を稼いだことになる。
セレクトセールの主取馬を売れ残り馬と表現したが、厳密には違う。
販売者の希望価格に添わなかったので、販売をあきらめて引き下げた馬という言い方が適切だ。
売り手としてはなるべく高く売りたかったのだけれど、その希望に添えなかった馬ということになる。
買い手から見れば、その馬を買う用意があっても、予定価格より高いので買わなかった馬という見方もできる。
要は、売り手と買い手の価格のミスマッチが生じた馬だ。
買い手としては無理にセレクトセールでほかと競ってまで買わなくても、後日、別の競走馬市場に上場されたときに、もっと安い価格で買うチャンスがある。
猪熊広次氏はこの手のお買いの馬の馬のブーケドレーヌの2009を狙いすまして安い価格でゲットした。
まさに馬見の名人と言っていい。
のちのダービー馬を選び取る素養がこんなところで伺い知ることができる。
(6)主取になった馬で1口馬主クラブから募集された馬の成績
さあ、いよいよ1口馬主クラブ会員にとって最も関心のあるテーマを扱うことにする。
すなわち、セレクトセールで主取になってのちに1口馬主クラブから募集にかけられた馬たちのレースパフォーマンスについて見てみたい。
該当馬は3頭で、以下の表にまとめた。
3頭のうち2頭が勝ちあがり、しかも3勝を挙げた。
1口馬主DBのデータを借りるて計算してみた。
シルクホースクラブから募集されたシルクラングレーは募集価格800 万に対して本賞金(付加賞含む)4,619 万で回収率指標577 %を記録した。一口価格1.6 万に対して控除前の一口賞金9.2 万。
キャロットファームから募集された プリュムは募集価格1,400 万に対して本賞金(付加賞含む4,048 万で回収率指標は289%。一口価格3.5 万に対して控除前の一口賞金10.1 万。
両馬とも黒字を計上したことになる。
このように、セレクトセール出身馬のなかには、主取馬から思わぬ、彫り出し物が見つかるケースが少なくない。
今年(2019年)のセレクトセール主取馬からシルクやキャロットで募集にかけられる馬がいれば、じっくり吟味したい
(7)資料・主取りとなった馬のレース結果
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