『資本主義と民主主義の終焉~平成の政治と経済を読み解く』水野和夫、山口二郎(祥伝社新書)を読んでいる。
今日は第2章「危機感漂う世紀末~相次ぐ企業破綻から金融危機へ」で1993~1999年の日本の政治経済を概観している。
1960年代後半からアメリカは対日貿易赤字が続き、日本は対米貿易大幅黒字による貿易の不均衡は、アメリカの企業経営を悪化させ、失業問題を起こしているとして、日米の貿易摩擦が起こりました。
1970年代半ばから自動車をめぐる問題で日米間の火花が散ることになります。
現在ではアメリカは中国との間で貿易紛争を起こし、アメリカの制裁関税措置に対して中国が報復するといった激しい応酬は世界経済の不安材料とされています。
こうした貿易摩擦のもととなるアメリカの貿易赤字は、ふつうは米国の製造業の国際競争力の低下で説明されます。
トランプ政権の強い支持基盤となったアメリカ中西部から北東部のラストベルトは鉄鋼や石炭、自動車などの主要産業の衰退が著しい工業地帯としてすっかり有名になりました。
工業立国として栄えたアメリカの製造業の競争力がすっかり弱体している。
こうした焦りが近年のトランプ政権の中国に対する強硬姿勢の背景にあるとみて間違いないでしょう。
ところが、水野和夫はかつての自動車をめぐる日米貿易摩擦の背景となったアメリカの貿易赤字の原因を製造業の競争力の弱体化とは別に日本と米国の「貯蓄投資バランス」の違いに求める見解を紹介しています。
貯蓄は所得から消費を引いた残りに対して、「投資」は国内の不動産、工場設備などの実物資産投資を表す(株や債券などの金融資産はここでは含まれない)。
日本は1981年以降、ずっと家計、政府、企業の貯蓄投資バランスは貯蓄が多いために経常収支は黒字。
ちなみに企業の貯蓄とは内部留保のことです。
こうした貯蓄が後押しする高い国内生産力がアメリカへの自動車の「集中豪雨的」輸出となって貿易黒字を生み出すことになります。
一方、アメリカは過剰消費をする。裏返せば貯蓄不足の国。
膨大な消費を輸入に頼ります。これが貿易赤字となって現れることになるのです。
水野は結論として、アメリカの貿易赤字の原因を日米間の「貿易の不均衡に求めて日本のせいにするのではなく、アメリカが過剰消費をやめればいいだけの話です。しかし、アメリカ政府は自国民に節約してくれとは言えません。」(P59)
確かに水野の言う通り、アメリカの家計の貯蓄率は低い。
働きアリの日本人は子どもの学資や住宅購入費用、あるいは老後の生活のために、稼いだお金をせっせと貯金する。
アメリカ人は住宅や自動車、家具や家電製品などを買いまくり、ロングバケーションを利用して一家で何週間も旅行に出かけて、手にしたお金をパッパと浪費する。
こうしたライフスタイルの違いがアメリカの貿易赤字、日本の貿易黒字となって現れていることは疑い得ない。
水野の指摘は鋭い。
だからと言って、アメリカ人がキリギリスをやめて急にアリになって節約家に豹変するとどうなるか。
確かにアメリカ経済を立て直すことができるが、逆に世界経済は停滞する。
アメリカ人が浪費したドルが世界に還流して世界経済をうまく回すことに役立っている。
それがわかっているからアメリカが日本に無理難題を吹きかけてきても日本は拒絶することなく、誠意を見せてなるべく要求に応えてきた。
中国はどうか。
米中貿易紛争は日米のときのような解決の糸口がなかなか見いだせない。
現在、中国は現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を進めている。
これは中国主導でアジア、中東、欧州に及ぶ大経済圏の構築を目指す構想で、中国は一大経済ブロックを形成して、日米に対抗し、EUの一部にも食い込む勢いにある。
別の見方をすれば、現在の国際通貨ドルに代わる元のブロック経済圏をつくり、アメリカ一強の世界経済にくさびを打ち込もうとしている。
だから、中国はかつての日本のように簡単にはアメリカに譲歩しない。
その理由は通貨にある。
中国経済の強みは社会主義国の建前をとっているので、元通貨の固定相場制をとっている点にある。
これは1997年のアジア通貨危機が中国に波及しなかった要因の一つに数えられる。
2008年のリーマンショックの台風が吹き荒れたときも中国は無風だった。
ドルは世界経済にリンクしているだけに、簡単に世界同時不況のあおりを受ける。
かたや中国の人民元は中国政府の恣意で運用されるリスクを無視できないが、これからはドルに代わるリスクヘッジの役割を期待される時代がくる。
米中の貿易紛争はいまやドルVS元の通貨戦争のスケールで世界規模に拡大しつつある。
『資本主義と民主主義の終焉~平成の政治と経済を読み解く』 を読みながら、そんなことをツラツラ想像しました。
👇ランキングをクリックしていただければ幸いです。