(1)ルヴェルディはフランスの詩人
サンデーサラブレッドクラブ所属の2歳牡馬ルヴェルディ(Reverdy)は父ディープインパクト、母エクセレンスⅡで、1口250万円、総額1億円の高額馬だ。
馬名のルヴェルディはフランスの詩人からの命名だそうである。
クラブホームページを引用する。
人名より。フランスの詩人。母名より連想
なんだか、あっさりしすぎていて、味気ないので、ここは気合を入れて調べてみる。
(2)ルヴェルディはピカソと一緒にキュビズム運動を始めた前衛詩人
「アヴァンギャルド(Avant-garde)」という言葉がある。
フランス語で、「前衛」を意味する言葉で、もとは軍事用語であるが、転じて芸術用語や政治用語など幅広い意味で用いられるようになった。
これは「革命」を含意する言葉で、芸術においては最先端の流行を創り出す、「トンガッタ連中」ということになる。
私見によれば、この「アヴァンギャルド」の嚆矢(こうし)がルヴェルディ(1889年9月11日 – 1960年6月17日)だ。
彼の年譜はwikipediaに譲る。
彼が創刊し、主筆を務めた前衛芸術・文学雑誌「南北」はその後のダダイズムやアンドレ・ブルトンのシュルレアリスムに影響を与えた。
また、モディリアーニから肖像画を描いてもらったりしている。
これが絵心の無い私から見れば、「ヘタウマ」で、なんだか、小学生の子どもが描いた「ボクのおとうさん」といった風情で笑える。
そして、ルヴェルディはなんと、あのシャネルを恋人としているから驚きだ。
なんだか、映画の主人公になりそうな人生を送っている。
ルヴェルディの写真も挙げるが、なんとも渋い男前。
陰がある感じで、こういうのって、モテ男君になって当然である。
(3)ルヴェルディの詩には静謐なリリシズムを感じさせる
そこで、かれの代表詩を1編紹介する。
「鐘の音」
すべてが 消える
風が歌いながら 通り過ぎる
木々が身ぶるいする
けものたちは死んでしまった
もう誰もいない
見るがいい
星たちも輝くことをやめ
地球も もう廻らない
頭は前にかしがり
髪の毛は夜をくしけずる
立ちつくしていた最後の鐘楼が
ま夜中を告げる
(大島博光譯)(三笠版 『現代世界詩選』)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
どうですか。全体的に終末観を漂わせていて、どこか寂しげで美しい。
正直、私は今までルヴェルディの詩を読んだことがなく、今回初めて目にしたが、ヤヴァイ。
持っていかれる。魂が。
特に9行目の「髪の毛は夜をくしけずる」がメチャメチャいい。
これは論理的におかしい。
「櫛が髪の毛をくしけずる」ならともかく、くしけずられるはずの髪の毛が逆にくしけずっちゃってる。
何を? 夜を。
だから、この行は意味ふ(意味がわからない)なんだけれど、ハッキリ言って詩には意味なんてどうでもいい。
とにかく、イメージが美しい。
ああ、イメージって言ってもヴィジュアルなものじゃない。
「髪の毛」の黒から転換する「夜」の黒のイメージのつらなり。
これがバッチリ決まっている。
私は、万葉集に出てくる枕ことばの「ぬばたま」を思い出した。
ヌバタマは、ヒオウギと呼ばれるアヤメ科アヤメ属の多年草植物の種子なんだけれど、そのツヤツヤとしたコクのある色が髪の毛や夜のイメージを喚起するしかけ(枕ことば)として用いられる。
「居明かして君をば待たむぬばたまの我が黒髪に霜は降るとも」
「あかねさす日は照らせれどぬばたまの夜渡る月の隠らく惜しも 」柿本人麻呂
これはいずれも『万葉集』にある歌なんだけれど、いずれも「ぬばたま」を介して、詩人たちは黒髪と夜がひとつらなりのものとして、意識されていた。
日本の上代の歌人とフランスのアヴァンギャルド詩人がほぼ同じ詩的感性で繋がっているなんて、なんだかコスモポリタンというか、インターナショナルが感じられて楽しい。
(4)ルヴェルディには競馬界の革命を期待したい
このフランス詩人ルヴェルディがピカソと出会い、現代絵画に革命をもたらし、褥(しとね)をともにしたシャネルを触媒にしてファッション界に旋風を巻き起こし、朋友ブルトンには、1924年には『シュールレアリスム宣言』を出させて、アートの革新運動をけん引した。
思い返せば、ルヴェルディが前衛芸術・文学雑誌「南北」を創刊した1917年3月は、ロシアでロマノフ王朝が倒れた2月革命の直後で、革命の機運がヨーロッパにも伝えられたときでもある。
その年の10月革命で前衛党ボリシェヴィキによる世界初の社会主義国家ソヴィエトが成立する。
「アヴァンギャルド(Avant-garde)=前衛」が「革命」を含意する、というのは、このような理由からだ。
ルヴェルディには、残されたディープインパクトの子どもたちの先頭にたって、前衛として競馬界の革命を起こすことを期待する。
(ちょっと、大袈裟だったかな。。。)