(1)前回のまとめ
ブエナビスタ産駒が期待通りに成果を上げない理由として、次の4つを指摘した。
①現役時代に競馬を使いすぎて、繁殖能力を消耗した。
②種牡馬キングカメハメハとの相性が合わない。
③ブエナビスタが突然変異だから産駒は平凡。
④1繁殖牝馬から活躍する産駒は平均1頭。この経験則によるもので、これから活躍馬が出る。
前回は、②・③の論点について考えてみた。
②についてはNO。③についてはYESともNOともいえるという曖昧な形で結論を留保した。
今回は④の論点について考えてみたい。
(2)「ブエナビスタはこれから活躍馬を出す」の当否
①~③では、ブエナビスタの2018が活躍できない論拠となっているが、④の主張では逆に、今まで活躍馬が出なくても大丈夫、これから活躍馬を出す。その活躍馬がブエナビスタの2018であってもおかしくない、という①~③とは反対の結論になる。
ということは、ブエナビスタの2018の姉たちが素質があり大器の片りんを見せつつも、不運や脚部不安などこれを阻害する要因があって大成できなかったということを証明できればよい。
なぜならば、このようなマイナス要因がなければブエナビスタの2018の活躍が保障されるからだ。
ということで、ブエナビスタの2018の3頭の姉たち(コロナシオン、ソシアルクラブ、タンタラス )の軌跡を振り返ってみる。
(3)コロナシオンの戦跡と記録
まずは、ブエナビスタの第1子コロナシオンから。
こうして母子の1歳募集時写真を並べて比較してみるのも一興だ。
上のコロナシオンはふっくらとして肉付きがよく好馬体に映る。
一方、下のブエナビスタは未熟さが全面に出ていて、貧相に映る。
生まれ月はブエナビスタは3月14日、コロナシオンは2月3日で、コロナシオンのほうが早生まれで成長面で一歩リードしているが、それにしても同じ母子でこの差はなんだと驚く。
募集時測尺を調べてみたが、コロナシオンしか手に入らなかった。
体高 145.0 、胸囲 166.0 、管囲18.7 、体重 388
コロナシオンの1歳募集時測尺
馬体写真の印象とは裏腹に、馬体重( 388)などから判断すると、2月生まれでこの数値はかなり物足りない。
それはデビュー後のコロナシオンの苦節に表されている。
12戦1勝 [1-0-2-9]という同馬の生涯成績が不振を物語る。
デビューの新馬戦こそ勝利したものの、その後は1勝もできずに引退した。
サンデーサラブレッドクラブのホームページからコロナシオンの出走したレースの勝因・敗因にかかわるところだけを抜粋してみる。
「ストライドの小さい馬で、前半は行き脚が付きませんでした。仕掛けても反応がいまひとつながら、直線で加速してからの反応が凄かったですね。距離もまったく問題ありませんし、重賞級の馬に間違いありません」(2016年10月16日の新馬勝ち後のルメール騎手のコメント)
「出遅れが大きく響いてしまい」(クラブコメント)「前走に比べてテンションが高く(中略)4コーナーでは反応がいまひとつで、直線に入るとストライドが小さくなっていました」
「追ってからは反応がありませんでした。直線ではバテてフラフラ走っていました」(2017年01月29日セントポーリア賞10着後の戸崎騎手のコメント)
「現状では馬体の緩さが目立ちますので、切れ負けすると思い、今日はハナを主張しました。(中略)後方追走でも伸びていたかどうかは何ともいえません」(2017年05月27日京都6R・芝2000m戦7着後の川田騎手の騎手のコメント)
「レースに行くと内にモタれる面を見せていました。直線までは我慢できていたのですが、ゴール前では脚が上がってしまいました。(中略)少し乗り難しい面がありますね」(2018年01月14日京都7R・芝1800m戦11着後の川田騎手のコメント)
「スタートしてから何度も替えていました。まだ体が完成しきっていない印象で、もう一段階成長してくればなと思います」(2018年01月27日中京12R・鞍ヶ池特別(1600m)戦8着後の北村友一騎手のコメント)
「馬体は凄く良くなっているのですが、前脚の出が硬いのが多少気にはなりました。」(2018年05月12日京都7R・芝1600m戦6着後の騎福永手のコメント)
「休養明けの分もあってか、動きが硬かったです。」(2019年04月06日4月6日(土)阪神7R・ダート1800m(牝)戦9着後のシュタルケ騎手のコメント)
以上のコメントを要約すると、コロナシオンが期待通りの結果を出せなかった要因として以下の点が挙げられる。
①気性難。スタートの出遅れにつながる。直線でモタれる。
②ストライドが小さい。
③動きが硬い。
④馬体が緩く、成長途上。
以上のような方法でさらにソシアルクラブとタンタラスについても検証してみたい。
(4)ソシアルクラブの戦跡と記録
ブエナビスタの第2子ソシアルクラブについて調べた。
体高152.5、胸囲 167.5、管囲 19.3、体重 395 1月26日生まれ
ソシアルクラブの1歳募集時測尺
ソシアルクラブの成績:12戦3勝 [3-3-1-5](2020年3月1日現在)
サンデーサラブレッドクラブのホームページからソシアルクラブの出走したレースの勝因・敗因コメントから導かれる同馬の特徴。
●ソシアルクラブの長所
・母譲りの切れる脚(新馬勝ち後の岩田騎手のコメント)
・「以前と比較して返し馬から常識にかかってきた」(2019年12月08日(日)阪神8R・芝1600m戦勝利後の川田騎手のコメント)
・「マイルが合う」(川田騎手)
●ソシアルクラブの課題
・気性面からのゲート難によるスタートでの出遅れ。→ブリンカー着用で勝利。
・追うと気が入らない感じ(内田騎手)
●ソシアルクラブのまとめ
新馬勝ち後に岩田騎手から「母譲りの切れる脚」と力強いコメントが寄せられているが、一方では「切れる脚がない」とルメール騎手から厳しい指摘も。
やはりこの馬の課題は精神面にある。ゲートの中でガタガタしてタイミングが合わず出遅れということが再三報告されていて、これはブリンカー着用などである程度矯正できるものの、その馬の持って生まれた気質なので、こればかりはなかなか難しい面があると言えるだろう。
あと1年の競走生活で3勝クラスから脱してオープン入りを目指してほしい。
(5)タンタラスの戦跡と記録
タンタラスの成績:7戦2勝 [2-2-0-3](2020年3月1日現在)
体高149.5・胸囲168.0・管囲19.2・体重409kg
タンタラスの1歳募集時測尺
サンデーサラブレッドクラブのホームページからタンタラスの出走したレースの勝因・敗因コメントから導かれる同馬の特徴。
●タンタラスの長所
・「牝馬にしては力強さがあり」(デムーロ騎手)
・「これから心身が成長したときが楽しみ」(マーフィー騎手)
●タンタラスの課題
・最後までフワフワした走り
・まだ幼い
・続けて(後ろから)馬に来られてひるむ
・ハミを取らない
・硬さがある
●タンタラスのまとめ
レースで押し切るのが理想という川田騎手の指摘があるように、気性面をよい方向で生かせるレース展開が望まれる。
初めてのブリンカー着用でスムーズに競馬ができた(川田騎手)という言葉からも気性の矯正にブリンカーが効果的であることが見て取れる。
タンタラスはまだ4歳なので、精神面がクリアーされればレースパフォーマンスのさらなる向上が見込める。
「今後は気性の成長が待たれる」という川田騎手の言葉で本馬の展望を締めくくりたい。
(6)ブエナビスタの2018の測尺と馬体
体高151.0、胸囲 169.5、管囲20.0、体重404
ブエナビスタの2018の1歳募集時測尺
かつてこのブログで1歳募集時の理想的な測尺値として、以下の基準を揚げた。
1歳募集時、胸囲172cm以上、管囲20cm以上、体重420~455キロ
ブエナビスタの2018はこの3項目のうち、1項目(管囲20cm以上)しか当てはまらない。
胸囲はもの足りず、体重は中位の部類で悪くはない。
2月7日時点での馬体重は495キロで、体重面では成長して不足分を十分取り戻している。
上の写真を見ると、現時点では調教を積んだ成果もあって、募集時の緩さがだいぶ解消してきた印象を受ける。
前後と上下のバランスもよく、いい具合に仕上がりつつある。
(7)ブエナビスタの2018の課題は精神面
姉たちとの比較で考えると、上が大成しない要因の共通点として挙げられるのは、精神面での不安だ。
3頭とも気性の問題でゲート内でちゃかついてタイミングが合わず出遅れというケースが目立つ。
さらにフィジカルな点では硬さも指摘できる
このような気性や体質はきょうだいで親から遺伝する。
ただし、上の3頭がキングカメハメハ産駒であるのに対し、本馬はモーリスを父とする。この点がプラスに出ればよいが。
大切なことを書き忘れた。
姉3頭が思うような結果を出せない理由として、「②ブエナビスタと種牡馬キングカメハメハとの相性が合わない」という論点をNOと書いたが、厳密にいうと、キングカメハメハ牝馬は総じて走らないという特徴がある。
ブエナビスタ産駒についても例外に漏れず、キンカメの硬さなどのマイナスの面が牝馬については顕著に受け継がれる傾向にあるという点は指摘しておきたい。
もう1つ重要な論点が抜けていた。
上の3頭(コロナシオン、ソシアルクラブ、タンタラス)の管理調教師は池添学だ。
気性面で難しい馬たちをうまく調整する上で、調教師能力の問題も指摘できるだろう。
その点、今回は関東のダービートレーナーの堀宣行師に預託先が代わっている。
この変化は大きい。
堀師の特徴は能力があっても難点を抱えていて仕上げが難しい馬をうまく調整する能力に秀でている点にある。
ということは、ブエナビスタの2018は難点を抱えている可能性がある。
その難点は主に気性面ではないか。
その根拠として調教度動画が挙げられる。
(8)ブエナビスタの2018の坂路調教の問題点
サンデーサラブレッドクラブホームページでは出資馬の調教動画が航海されている。
ブエナビスタの2018の2019年12月11日のラップは以下の通り。
16.8―14.9―15.7 3F 47.4
このときはタイムも速く、フォームも安定していてブレがなく好印象であった。
2020年2月28日の動画では、ラップは以下の通り。
17.7―15.2―16.7 3F 49.6
12月11日より時計が遅くなっていることも気になるが、何より、フォームがあまりよくない。
首を上げ気味で、横に寄れている。
これは馬が苦しがっているのか、あるいは気性の問題か。
私は後者の要因が大きいと考える。
それともう1つきになるのは、12月11日も2月28日もブエナビスタの2018は画面向かって左側の壁添いを進んでいることだ。
特に2月28日動画では、登坂しているのは1頭だけでコースを広く使えるにもかかわらず、左端の壁添いを進んでいる。
穿ってみると、これは馬がまっすぐに走れないから、矯正する意味もあり、壁に頼って登坂している、ともとれる。
ということで、いったんまとめると、
④1繁殖牝馬から活躍する産駒は平均1頭。この経験則によるもので、これから活躍馬が出る。
この論点は、案外当たっている。
どんな良血同士をつけても、たいていの馬はインブリードを繰り返しているので気性や体質などのさまざまな課題を抱えている。
だから本来持っている素質を十分に開花させることができないうちに競走生活を終えることになる。
良血を生かして重賞級の馬に育つのは、こうした課題をうまく克服することができるという条件がついている。
これが可能なのは繁殖牝馬の産駒のうちせいぜい1頭なのだろう。
ここまで、いろいろと書いて大変長くなったが、ここらで結論を出させてもらいます。
ブエナビスタの2018は姉たちと同様に気性の不安を抱えている可能性がある。これを堀師がどう調整できるかが、この馬が大成できるか否かのカギだ。
【ブエナビスタの2018の評価/第3回】モーリス産駒は結局走るのか? 終わり
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