(1)血量12.5%と25%との違い
ブリックスアンドモルタルの種牡馬としての能力について書いている。
前回は①「 Storm Bird の持つポテンシャルとそのクロスを持つことの意味」について考えを書いてみたが、社台・吉田照哉氏サイドの期待や思惑を推測するうちに、疑問点よりも推し材料を中心に論考することになってしまった。
今回は、一歩引いた目線で、ビシッと厳しく見ていく。
ストームバード(Storm Bird)⇒ストームキャットの血が、母父などに入ることで、いわば隠し味としての位置づけであったものが、3×3と全面に出てくることで、どうなるか。
つまり、12.5%(母父の父)であった ストームバード の血量が、 3×3 のクロスとなることで一気に25%と倍増することで生じる現象はプラス面ばかりではない。
今日取り上げるのは、前回、予告した次のテーマだ。
「 ②種牡馬として3×3のクロスを持つ馬として他にどんな馬がいるか 」
ブリックスアンドモルタルと同じ「 ストームバード の 3×3 」ではないが、同じ3×3の濃いクロスを持つ種牡馬が他にいないか探してみて、その是非や効果、弊害等を考察してみることにする。
(2)大種牡馬デインヒルの持つクロス
「3×3のクロスを持つ種牡馬」と聞けば、大方の血統マニアなら、まずデインヒルの名前を思い出すに違いない。
上の5代血統表でもわかるように、デインヒルはナタルマ( Natalma )の3×3のクロスを持つ。
この ナタルマ( Natalma ) は現代競馬に最大級の影響力を与えた偉大な種牡馬 Northern Dancer の母として知られる。
デインヒル自体も Northern Dancer の 血脈をさらに大きく広げた大種牡馬で、世界のサラブレッドの血の根幹にある血のひとつである。
イギリス・アイルランドリーディングサイアー を3回(2005年-2007年) 。
オーストラリアリーディングサイアー -を9回(1994/95年-1996/97年、1999/00年-2004/05年)。
フランスリーディングサイアー を 2回(2001年、2007年)。
この経歴がデインヒルの凄さを物語る。
代表産駒としては、枚挙にいとまがないが、主なものだけを以下に表で挙げる。
このようなデインヒルの種牡馬としての成功は ナタルマ( Natalma )の3×3 という思い切ったインブリードが功を奏したことによるものだ。
現代のサラブレッドは Northern Dancer の血によって屋台骨が作られたと言っても過言ではないが、その血の流れの源流にまで遡って、ピュアな血を再現したもの。
種牡馬デインヒルの3×3の持つ意味は、以上のような表現でまとめてよいだろう。
(3) ブリックスアンドモルタルを デインヒル と同列に扱うこと はできない
それでは、ブリックスアンドモルタルも ストームバード(Storm Bird) の3×3でデインヒルと同じ道を歩むことができるか?
詳細に両者の5代血統表を見比べると、相違点がいくつかある。
第一にデインヒルは(繁殖)牝馬のクロスを持つのに対し、ブリックスアンドモルタルは種牡馬のクロスという点。
他にも違いがあるが、これ以上書くと、【サンデーのクロスで1口馬主を極める】のネタバレになるので、詳細は下のnoteブログの有料記事をご参照ください。
https://note.com/soumanosuikoden/n/n5ba64130d2b8
上に貼った記事 【サンデーのクロスで1口馬主を極める】 は主にサンデーサイレンスのクロス(3×3、4×3、3×4)について詳しく分析している。
その分析の一部をかいつまんで書くと、 デインヒルの 持つクロスは「好ましいクロス」であるのに対し、 ブリックスアンドモルタル の持つクロスは「好ましいクロス」ではない。
ぼかした書き方で、申し訳ないけれど、同じ3×3でも ブリックスアンドモルタルを デインヒル と同列に扱うことは難しいことだけはハッキリと書いておきたい。
(4)ブリックスアンドモルタルはフサイチコンコルドと似ている
ほかの例を挙げる。
1996年の日本ダービーでデビューわずか3戦目で、武豊鞍上のダンスインザダークを差し切って劇的な勝利を掴んだ、あのフサイチコンコルドだ。
フサイチコンコルドはNorthern Dancer の3 × 3(25.00%)のクロスを持つ。
種牡馬のインブリードクロスを持つということでタイプとしては、ブリックスアンドモルタルに近い。
フサイチコンコルドの産駒としては、地方で多くのG1競走を制した砂の王、ブルーコンコルド(マイルチャンピオンシップ南部杯3回、JBCスプリント、JBCマイル、東京大賞典など)を出したものの、産駒で中央G1勝ちをした馬はない。
ブルードメアサイアーとしての フサイチコンコルド は、ジョーカプチーノ(NHKマイルカップ)を出したぐらいで、種牡馬としての フサイチコンコルド に対する評価は正直、高いとは言えない。
ブリックスアンドモルタル が種牡馬として辿る道も同じになるのではないか。
そう危ぶむ声が聞こえるようだ。
星の数いる種牡馬のなかで、3×3のクロスを持ちながら成功を収めたものは、デインヒル1頭というのは寂しい。
3×3 の濃い血がいいとなれば、世界中の生産者が血眼になってこのクロスを持つ種牡馬(候補)を探し回り、ガンガンつけるだろう。
現実はそうなっていない。
ということは、3×3の血は競走馬としては活躍した馬が少なくないものの、やはり種牡馬になると難しい。
このような結論を下して間違いなさそうだ。
【濃すぎる血の功罪】ブリックスアンドモルタルの疑問②ー2 終わり
次回は3つめの疑問【アメリカの芝G1のレベルって?】を予定しています。
よろしくお願いします。