(1)はじめに
「初仔の牝馬は走らない?」というテーマで前回まで3回にわたって書いてきた。
このテーマは、一般の競馬ファンはあまり関心が薄いようだ。
馬券戦略に直結するのに、血統や馬体論は盛んであっても、この種の議論が従来あまりされてこなかったことは、大いに疑問に感じる。
また、1口馬主でも、社台・サンデー、G1の各サラブレッドクラブの募集がいま、たけなわだ。
クラブホームページで2020年募集馬リスト(カタログPDF)が掲載され、みさなさんは馬体研究に余念がないことと思われる。
いい馬体、好みの馬体を選ぶという方法もあるが、逆に「絶対行ってはいけない馬」をカットする消去法も有効になる。
こうしたなか「初仔の牝馬」は真っ先に消しが入る馬になる可能性がある。
だから、もう少しこのテーマを掘り下げて考えることは、選馬のうえでとても重要になる。
このような問題意識を持って、ネットサーフィンをしていたら、アメリカ発の重要な研究論文に出くわした。
今回はその論文の内容を紹介し、妥当性と日本に当てはめることができるかを検討してみることにする。
(2)第2仔~第6仔の繁殖牝馬が優秀
その論文のタイトルは「繁殖牝馬の将来の成功を左右する出生順についての研究」で、『ジャパン・スタッドブック・インターナショナル』に掲載された。
https://www.jairs.jp/contents/w_news/2017/12/6.html
1998~2008年のデータに基づく出生順が競走成績と繁殖成績に大きな意味を持つことが実証研究で明らかにされた。
内容を箇条書きで紹介する。
①アメリカのサラブレッド生産で、第2仔~第6仔の牝馬の競走成績が良好で、なおかつ繁殖牝馬としての成績もよいとされてきた。
②第7仔以降の牝馬は競走成績と繁殖能力に衰えが見られる。
③第2仔・第3仔として生まれた繁殖牝馬はブラックタイプ勝ち馬を最も高い率(出走産駒の5.36%)で出産している。特に重賞優勝牝馬の第3仔のブラックタイプ勝ち馬率が13.1%(重賞勝ち馬6.92%)。第2仔では12%。
④第4仔として生まれた繁殖牝馬は重賞勝ち馬を最も高い率(出走産駒の2.41%)で出産している。
⑤こうした事象の原因は繁殖牝馬の卵子/DNAの劣化(突然変異)によるものと考えられる(メチル基がDNA分子に付加することによって生じる、産駒のさまざまな健康問題や筋繊維への影響)
(3)サンデーサラブレッドクラブ募集馬で検証
それでは、このアメリカの研究成果が日本であてはまるかを、サンデーサラブレッドクラブ募集馬の全重賞勝ち馬で検証した。
クラブホームページに掲載している重賞勝ち馬(ダイナースクラブ時代を含む)に記載漏れがあったものを気が付く範囲で補足して、データをまとめた。
以下がその表にあたる。
この結果がアメリカの研究成果を反映しているか、検証する。
①アメリカのサラブレッド生産で、第2仔~第6仔の牝馬の競走成績が良好で、なおかつ繁殖牝馬としての成績もよいとされてきた。
検証結果☞ 「第2仔~第6仔」ではなく、「3・4・6番仔」の産駒の重賞勝ち馬数が競走成績が良好という結果となった。
5番仔の重賞勝ち馬頭数の率が低く不自然なものとなっているが、これはサンデーサラブレッドクラブ募集馬サンプル数が少ないための誤差と考えられる。
データを増やせば、アメリカの研究成果に近づくのではないか。
したがって、この項目はおおむね合致している。
②第7仔以降の牝馬は競走成績と繁殖能力に衰えが見られる
検証結果☞ バラツキはあるが5番仔以降減少傾向にある。7番仔で区切りがあるようには考えられない。これもデータの総数不足が原因であると考えられる。
③第2仔・第3仔として生まれた繁殖牝馬はブラックタイプ勝ち馬を最も高い率で出産している。特に重賞優勝牝馬の第3仔のブラックタイプ勝ち馬率が最も高い。
④第4仔として生まれた繁殖牝馬は重賞勝ち馬を最も高い率(出走産駒の2.41%)で出産している。
検証結果☞ 3番仔の重賞勝ち馬頭数(26頭)と率(30.2%)が最大であり、4番仔がこれに次ぐ。これは見事にサンデーサラブレッドクラブ募集馬にもあてはまる。
注記.アメリカの研究では、ブラックタイプ勝ち馬と重賞勝ち馬とを分けているが、サンデーサラブレッドクラブ募集馬では、重賞勝ち馬だけをカウントした。
⑤こうした事象の原因は繁殖牝馬の卵子/DNAの劣化(突然変異)によるものと考えられる(メチル基がDNA分子に付加することによって生じる、産駒のさまざまな健康問題や筋繊維への影響)
検証結果☞ 不明
(4)まとめと感想
これはすごい発見だ。
日本では、競走馬の生まれ順を気にしてきたが、そうではなく、その競走馬を産んだ母馬の生まれ順が産駒のレースパフォーマンスに大きな影響を与えるという。
なんだか、目からウロコの結論だ。
考えてみれば、若くて健康な母馬から生まれた仔馬が健康で活力がある、という理屈は理解できる。
母が初仔と2番仔の産駒のパフォーマンスが落ちる理由はも少し時間をかけて考察しなければならないけれど、これは1口馬主の馬選びや競馬予想で使えそうな理論だ。
今年の社台・サンデー募集はすでに第一希望を投函してしまったけれど、他クラブや来年以降の選馬で活用できる。
みなさんの馬選びの参考になれば幸いだ。
👇ランキングをクリックしていただければ幸いです。