現在、格差社会が進展している。
正規社員と非正規社員の格差や大都市と地方の格差が深刻になっている。
旅をしていると、地方経済の疲弊が手に取るようにわかる。若者はみな都会で出て行ってしまい、駅前はお年寄りの姿が目立つ。
商店街はシャッターを下ろし、飲食店を探すのにも苦労する。
私がひとり旅をするようになったのが、2000年代に入ってから。
とくに旅先で地方経済が地盤沈下していることを実感したのは小泉政権のころと記憶している。
これは理由がある。
小泉純一郎は「自民党をぶっこわす」という派手なパフォーマンスで登場し、2001年4月の総裁選を圧勝して小泉旋風を巻き起こした。
ところが、小泉が壊すと言ったのは、自民党ではなく、旧来の自民党主流派の経世会(竹下派)の政治だった。
経世会は地方議員との強いパイプを持ち、補助金や財政投融資などの財源をもとに地方へ公共事業を施し、富の再分配をした。
従来の自民党総裁の多くはいずれも地方の有力者が就任し、地方経済のマイナスを国政面からフォローしようとした。
これは田中角栄(新潟県選出)から竹下登(島根県選出)への一貫した自民党主流派の政治姿勢である。
東京都で生でまれ育った私は、こうした政治手法を地方へのカネのバラマキであり、補助金を使ってやたらとハコモノ(公共施設)を造っては国民の税金を無駄遣いするというふうに解釈した。地方のボスが政治を私物化している。そう思った。
その挙げ句、公共事業をめぐる汚職事件が後を絶たず、自民党政治は腐敗していると嫌悪した。
こうした政治の見方は主に大都市の朝日新聞がとる主張で、あながち間違いではないが、政治の一面だけを強調した偏った政治観だ。
旧来の経世会の政治手法の根幹である、補助金と郵便局に集まる財政投融資に目をつけた小泉は三位一体の改革と郵政民営化をぶちあげた。
その狙いは、こうだ。
補助金で地方へカネを還流させて公共投資の誘導によって地方の支持基盤を強固にする流れを絶つ。そして、郵政民営化によって第二の予算と呼ばれた財政投融資にくさびを打ち込み、郵政族や建設族などの族議員を多く抱える経世会の息の根を止める、というものだ。
(当初は田中角栄の娘田中真紀子が小泉を応援したのも皮肉だ。もとはと言えば、経世会流の政治手法をつくったのは、角栄だからだ)
小泉のもくろみは見事に当たった。郵政民営化に反対する自民党議員を「抵抗勢力」というレッテルを貼って、朝日新聞などの大手新聞も援護射撃を送った。
ところが、小泉改革のツケは十年後に回ってきた。
地方経済、特に雇用は公共事業頼みだ。
その血液が途絶えたいま、地方で働き先のない若者はみな生まれ故郷を離れて大都市を目指し、東京の一極集中と地方の人口減少が加速している。
非正規社員がワーキングプアすれすれの状態であえいでいるのも、小泉政権で労働者派遣法を改正し、工場労働者にも解禁したことが根本原因だ。
私は政治がまったくわからなかった。
朝日新聞などの大都市のメディアが垂れ流す情報を「正義」と信じていた。朝日新聞などの記者は偏差値エリートの集団だ。こうしたなんの苦労も知らずに育った、頭でっかちの学校秀才が書いた記事に私は洗脳されていた。
自分の目で見て、自分の頭で考えようとせず、マスコミの書くことを鵜呑みにしていた。
今から思えば、とても恥ずかしい。
小泉純一郎は神奈川県横須賀市に地盤を持つ。以降の総理大臣も東京近郊出身者が多い。
菅直人は東京都武蔵野市、小金井市、府中市が基盤。野田佳彦は千葉県船橋市。これら都市の政治家が日本の政治を悪くした元凶だ。
大都市東京は集積の利益があり、インフラなどの社会資本が十分に行き渡り、企業活動や生活面で恩恵を受けている。
国民から集めた税金をインフラなどの生活基盤が不十分で、不利益、不便を強いられている社会的弱者に再分配することが財政、すなわち政治の役割だ。
だから、自ずから歳出の多くは地方財政費や社会保障費に回されるのが当然だ。
東京に長く住んで、便利な生活を当たり前と思い、恩恵に気が付かなった私はこれを不公平であり、利益誘導と考えていた。
弱い人たちのために政治はある。
かつての55年体制当時の自民党は政治の本質を十分わかったうえで、予算配分をしていた。
いまから思えば、郵政民営化に反対して、自民党の推薦を外され、朝日新聞からは抵抗勢力呼ばわりされた自民党議員、たとえば綿貫民輔(富山県選出)などは、古き保守政治の良心を体現していた。
こうした政治家が年々いなくなって久しい。
いまは頭の先だけで考えて、大衆受けするパフォーマンスのことしか考えない都市型政治家が与党も野党も増えてしまったことが悲しい。
それでは、山口県選出の安倍晋三の政治はどうか?
明治時代の薩長藩閥の復活で、時代は大きく巻き戻された感がなきにしもあらずだが。
安倍政権に対する評価はまた後日書いてみたい。
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