(1)ドレフォン産駒がダート短距離を主戦場とすると仮定した
社台・サンデサラブレッドクラブ2020年募集馬で、新種牡馬ドレフォン産駒が何頭か募集されている。
一部の会員に熱狂的なドレフォンのファンがいて、人気もじわじわと上昇機運にある。
ドレフォンがダートの1400m以下に無類の強さを見せたように、産駒はダート短距離に適性があり、このジャンルに特化していると仮定したら、中央のダート短距離重賞(根岸ステークス[1400m]、プロキオンステークス[1400m]、カペラステークス[1200m])で勝つことができるだろうか。
こんな疑問から初めて、過去10年の中央のダート短距離重賞の勝ち馬にドレフォンと同じ、父がStorm Bird系の馬がどれぐらいいるか、調べてみた。
(2)根岸ステークスの優勝馬の傾向(過去10年)
まず、一目瞭然、いろいろな種牡馬の産駒が根岸ステークスを勝っている。
ほんとにバラバラで、かぶる父馬がいない。
系統を見ると、かつてはHalo-サンデーサイレンス系が断然の強さを見せていて、2011年から4年連続でサンデーサイレンスの子孫の種牡馬(エイシンサンディ、ゴールドアリュール、アドマイヤマックス、ネオユニヴァース)の産駒が優勝している。
ドレフォンは父が Gio Ponti で、この馬はStorm Bird系の種牡馬であるが、同じStorm Bird系(Discreet Cat、ヘニーヒューズ)の父を持つ勝ち馬が2頭続いて、そのあとMr. Prospector系(フォーティナイナー系)(プリサイスエンド、トワイニング)の種牡馬の産駒が2頭現れ、直近の2年間はまた新しい系統のデピュティミニスター系(Spring At Last)、サドラーズウェルズ系(Frankel)というように、流れがある。
ドレフォンと同系統のStorm Bird系の馬も勝っていることを確認することができて、ひと安心といったところだ。
(3)プロキオンステークスの優勝馬の傾向(過去10年)
プロキオンステークス優勝馬の系統も、かつてはHalo系-サンデーサイレンス系が強さを見せる(ゴールドアリュール、バブルガムフェロー)という傾向は根岸ステークスと変わらない。そのあと一時期ふるわなかったが、2019年Halo-サンデーサイレンス系(アドマイヤオーラ)は復活した。
細かい経緯はあるが、基本的にプロキオンステークスの勝ち馬の系統はHalo-サンデーサイレンス系、Mr. Prospector系、Seattle Slew―A.P. Indy系の三つ巴といっていい。
残念ながら、ドレフォンの属するStorm Bird系の勝ち馬はいない。
(4)カペラステークスの優勝馬の傾向(過去10年)
カペラステークスもHalo-サンデーサイレンス系(エイシンサンディ、ゴールドアリュール、アグネスタキオン、カネヒキリ)の天下がしばらく続いたが、近年はデピュティミニスター系(Spring At Last)産駒のコパノキッキングが連勝している。
一方、Storm Bird系からはスタチューオブリバティ産駒のキクノストームが優勝している。
(5)ダート短距離オープン競走のStorm Bird系産駒優勝馬(過去10年)
以上見てきたように、過去10年の中央のダート短距離(1400m、12000m)重賞の勝ち馬30頭のうち、Storm Bird系の産駒を3頭確認することができた。
この系統の馬自体がMr. Prospector系、Seattle Slew―A.P. Indy系、デピュティミニスター系の馬の数に比べて国内では少ないので、優勝馬3頭という数字は悲観するものではないと言っておきたい。
それでは、次にダート短距離オープン競走の優勝馬に Storm Bird系産駒が何頭いるか調べてみた(過去10年)。
先に中央のダート短距離重賞(根岸S、プロキオンS、カペラS)を優勝した3頭を加えた表を上に作成した。
ダート短距離重賞、オープン競走の優勝馬(過去10年)でドレフォンと同系統のStorm Bird系ダート短距離重賞、オープン競走の馬は合計で9頭いる。
この9頭でドレフォン産駒のイメージトレーニングをしてみる。
ドレフォン産駒が仮定したようにダートの短距離適性を示し、ダート短距離重賞、オープン競走を勝つことができる力を持っていたばあい、上記のStorm Bird系9頭を「疑似ドレフォン産駒」(ドレフォン産駒に似ている馬)と名付けることにする。
(6)ダート短距離適性を示すドレフォン産駒の課題
ドレフォンは勝ち鞍がダートの1400m以下の距離しかない。
ドレフォンの適性をそのまま反映させた産駒(勝ち星の大半がダートの1400m以下に集中した産駒)が生まれたとすると、JRAでダートの1400m以下の重賞が少ないことが問題となる
そもそもダート重賞の優勝賞金も少なく、このジャンルのうま味が少ない。
うま味が少ない上に、小さいパイをドレフォン産駒同士が奪い合う事態になる。
地方の交流重賞戦に向かう手もあるが、地方の重賞競走もやはり優勝賞金が中央のオープンなみの安さである。
そこで、この課題を克服する手段は2つある。
第一に、ダートの距離適性を延ばすこと。1600mや1800mでも勝てる馬であれば、ダートG1のフェブラリーステークスやチャンピオンズカップなどに勝つチャンスが出てくる。ダート中距離重賞は短距離重賞に比べてレースが多く、選択肢の幅が広がる。
第二に、芝適性を示して、芝のレースでも賞金を稼ぐことができることである。芝競走の重賞は賞金もダートに比べて高く、これを勝てる実力を備えていれば、使えるレースが一挙に増え、ローテーション的にも楽になる。
そこで、「疑似ドレフォン産駒」9頭の成績をダートの1400m以下、ダートの1500m以上、芝の1400m以下、芝の1500m以上の4つのジャンルに分けて、ダートの距離適性を延ばしている馬や芝適性を示している馬がいるかを調べてみた。
結果は一番下に表にしてあるので、ご参照ください。
結論から書くと、「疑似ドレフォン産駒」9頭のうち、ダートの距離適性を延ばしている馬は1頭(モーニン)だけ存在した。モーニンはダートのG1フェブラリーステークスを優勝している。まさにドレフォン産駒もかくのごとくありたい、という理想のような馬だ。
ドリームキラリは1500m以上のダート中距離を6勝しているが、ダート1400m以下の短距離は1勝だけである。
ということは、ドリームキラリは本来はダート中距離馬とみなしてよいだろう。最近のダート中距離戦はスピードがないと勝てなくなっているので、その余勢を駆ってダート1400mも勝ってしまったというのが実態だ。
ダート短距離馬が距離を延ばして中距離を勝ったのではなく、その反対になる。
一方、芝適性を示している馬はゼロであった。
エイシンバッケンとエーシントップの2頭が芝の勝ち鞍があるが、エイシンバッケンは芝の1600mを未勝利戦で勝ちあがっているが、昇級後勝ちあぐねて、ダート短距離に転向して活路を見出した経緯があり、芝のレースでも賞金を稼ぐことができているとはみなしがたい。
エーシントップはG2ニュージーランドTを勝っている馬で、完全に芝で賞金を稼げる馬であるが、芝の短距離・中距離で合計4勝をあげているのに対し、ダート戦では140mのオープンを1勝しているだけである。
このことから考えて、エーシントップは本来バリバリの芝馬で、芝のスピードの勢いでダートのオープン1400mをも勝ってしまったので今回「疑似ドレフォン産駒」にカウントされてしまった。
けれど、エーシントップをドレフォン産駒がダート短距離に特化していると仮定した場合に参考となる馬と考えるべきではない。
以上見てきたように、ドレフォン産駒がダート短距離に特化している適性の場合の課題を克服しているのがモーニン1頭というのは、やや心もとない。
モーニンはStorm Bird系のヘニーヒューズ産駒で、この馬の産駒としてほかにG1朝日フューチュリティを勝ったアジアエクスプレスがいる。
社台グループがドレフォンを導入した背景として、このモーニンとアジアエクスプレスの活躍が背中を押したこともあるのだろう。
(7)まとめ
ドレフォン産駒が父の適性をそのまま踏襲してダート短距離に主軸を置いた場合の課題をモーニン1頭の例からクリアーできているとは思えない。
また、ドレフォン産駒がダート短距離で活躍するというその前提そのものも疑ってかかるほうがいい。
このジャンルではMr. Prospector系が席巻している。
資料には出さなかったが、ダートの1400m、1200mオープンの勝ち馬を見ると、Mr. Prospector系の馬が多数を占めている。
ほかにはDeputy Minister系やSeattle Slew―A.P. Indy系などライバルも多い。
そして何よりドレフォン産駒同士がライバルとなって、共食い状態となる。
このように考えると、ドレフォン産駒が本当に父の適性通りの馬であったら、そのことがかえって自分で自分の首を絞めることにつながるのである。
ここまで、データを取りながら、事実に沿って考えてきたつもりであった。
ところが、私はとんでもない間違いを犯していたことにあとで気が付いた。
簡単に言うと、ダートの1400m、1200mの短距離重賞とオープン戦を勝った勝ち馬から考えてきた。
つまり、過去の延長線上でものを判断してきた。
ところが、社台グループのドレフォン導入はこのような「過去の延長線」志向の経験論で考えてはいけないケースであることをうっかりしていた。]
つまり、従来社台グループは本来、芝のステークスウイナーを生産することを目的としている。
もちろん、計算外でヴァーミリアンのようなダートの怪物が生まれることもあった。しかし、それは過去のことで、現在は芝のマイル~クラシックディスタンスでは社台グループの力があまりにも絶大なため、非社台系の生産牧場はダート馬の生産に主軸を移している。
Halo-サンデーサイレンス系は拡大傾向にあり、ダートの中距離路線に対応できる種牡馬もちらほら現れ(ゴールドアリュール産駒やネオユニヴァース産駒)るようになったため、非社台、特にマル外の馬達は近年こぞってダート短距離路線を専門分野にするようになってきた。
つまり、この領域の生産は非社台の聖域化している。ということは、そもそも種牡馬や繁殖牝馬の質や適性が社台グループのものとはまったく異なるものなのだ。
こうした過去の延長線上でドレフォン導入を考えては、事態を見誤る。
近年のダート短距離馬の牝系とはまったく異なる、社台グループの保有する牝系、その多くはHalo-サンデーサイレンス系+ドレフォン(Storm Bird系)が大量に生産される。こうした馬達がダート戦の距離延長に対応できるのか、芝適性があるのか、という問題を考えることが最優先事項となるのだ。
ということで、このような導線のもと、ドレフォンが日本で成功するかという問題を再度、考え直してみたのが👇こちらのnote有料記事になります。
https://note.com/soumanosuikoden/n/n7559deecbeaf
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「アロマティコの19 」「メルヴェイユドールの19」「インナーアージの19 」「スマイルシャワーの19」などサンデサラブレッドクラブで募集されているドレフォン産駒のレビューを書いています。
ドレフォン以外にも、シルバーステート産駒やキタサンブラック産駒、イスラボニータ産駒、サトノアラジン産駒についてもレビューしています。
(8)資料:「疑似ドレフォン産駒」の適性
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