(4)前回のおさらいと今回の展望
【対談】ポストディープ&キンカメ世代を担う種牡馬は何か?(第1回)では、ディープインパクトやキングカメハメハ、ステイゴールド、ゴールドアリュールなど、かつての中央競馬を担ったビッグネームの種牡馬が死去したあとの、種牡馬の勢力関係を「適性マップ」(「種牡馬の適性表」)を作成して示した。
そして、ドゥラメンテ産駒とモーリス産駒の「適性マップ」での位置付けを図示して、生産者の狙いを解説してみた。
第2回の今回は、ドゥラメンテ&モーリスの新規導入種牡馬の成功の可能性を探り、社台グループが思い描く構想が実現するのかの可否を確かめたうえで、サラブレッド生産界の今後の展望を示したい。
(5)ドレフォン成功の可能性をさぐる
前回の「適性マップ」をもう一度見てみるよ。
社台グループは、ディープインパクトとキングカメハメが抜けた穴をドゥラメンテに期待し、フジキセキが退いて手薄になったマイル部門の種牡馬にロードカナロアを投入し、さらに加えてモーリスを導入することで、拡大路線をとる。そうして、やがては衰えるダイワメジャーに代えるという戦略を取っている。ここまでは前回の復習だ。
ドゥラメンテもモーリスもなんか、左のほうに偏ってるね。
社台グループは基本的にクラシックを獲る馬を生産しているから、どうしても芝馬傾向になる。東京の2400mを勝つにはスタミナのほかに近年はスピード値も要求されるから、マイル路線でも活躍できる馬も結果として現れることになる。
左にはたくさん馬がいるのに、右側にいる馬は少ないね。
ダート重賞は賞金が少ないということと、日本のダート馬はアメリカダート血統を導入しているから、どうしてもダートの短・中距離を中心にレースが組まれているから、右上が皆無に近い極端な分布になっている。従来のダート部門では、社台グループを見るとゴールドアリュール産駒が活躍する傾向にあったが、ゴルアも今は亡い。
それじゃあ、社台グループはピンチってことだね。
そこで、社台はドレフォンを2017年にアメリカから購入した。
ドレフォンってボクも知ってるよ。アメリカの競走馬で、2016年のブリーダーズカップ・スプリント(GI)、キングズビショップステークス(GI)、2017年のフォアゴーステークス(GI)などダートの6ハロンから7ハロンで活躍した馬なんだよね。すごくスピードがある馬で、とくにダッシュ力に定評があるんだとか。
そこで、このドレフォンを「適性マップ」に入れてみるよ。
わっ、凄い! ドゥラメンテ、モーリス、ドレフォンで三角形になっている!
そうだね。」これで社台グループは芝のクラシックディスタンス(長距離)とマイル(中距離)、それからダートと中央競馬の3路線をこの3頭の種牡馬でしっかりと固めるという方針だ。
それじゃあ、社台王国の支配はダートにまで及んで、中央競馬は完全に社台のもの、というわけだね。
ところが、事はそう簡単には運ばない。ダート血統の種牡馬は「適性マップ」に示した馬名のほかにも多く、非社台系が競って生産し、得意としている部門でもある。競合勢力は多く、マジェスティックウォリアーなど有力な種牡馬もどんどん導入されている分野でもあるから、ドレフォンが成功を収めるかどうかは、ハッキリ言って未知数の部分が大きいよ。
(6)ドゥラメンテとモーリスの成功の可能性
いよいよ本題に入るよ。ズバリ、ドゥラメンテとモーリスが成功する可能性ってどれくらいあるの?
難しい質問だね。それは、競合する他の種牡馬との関係から考えるのが本筋だね。「適性マップ」を見ると、ドゥラメンテは先行しているハーツクライ、ハービンジャー、ルーラーシップ、オルフェーヴルなどがライバルとなる。
これらの馬は全部社台グループの繋養馬じゃない。
そうだね、だから、ドゥラメンテ産駒が負けるのは、同じ社台グループの馬ということになるから、最悪ドゥラメンテ産駒が失敗しても今のところ社台には痛手はそれほどない。ただ、コントレイルが引退して非社台系の牧場で種牡馬になると社台にとっては大きな脅威となる。それとシルバーステートあたりが大成功したら、勢力関係がひっくり返る可能性はゼロではない。
そんなことが本当に起こるの?
あくまでも可能性の話で言っているだけで、実際はそんなことは起こらない。近年の競走馬の生産牧場の役割は種付けだけでなく、仔馬の管理や調教、育成など多岐に渡っている。スタッフの教育や最新技術の導入、外厩施設などへの設備投資など規模や資金力が勝る者が最後は勝者となる。こうした総合力ではいまのところノーザンファームがまさっていて、1強の地位はまだ揺るがない。
結局、ドゥラメンテは成功するの?
2017年(284頭)から2019年(184頭)に種付け数を一気に減らした。100頭も減らしてブランド化を図っているわけだが、この戦術がどう出るかによる。初年度(2020年=今年)と来年の産駒からG1を勝つような活躍馬が出れば勢いに乗る。もし初めの2年でコケるようなら、ブランドの化けの皮がはがれて、かつてのラムタラのようになる。
それじゃあ、モーリスは?
「適性マップ」では、ダイワメジャーとロードカナロアがライバルだが、ダイワメジャーは年だからやがて種牡馬から引退する。そうなると競合はロードカナロアだけとなる。かなりの強敵だが、モーリスは2017年(265頭)、2018年(245頭)、2019年(212頭)と3年連続で200頭を越える種付けをしている。実際に生まれるのはこの5~7割ぐらいだが、これだけ多く産駒を種付けていれば活躍馬もそれなりに多く出るだろう。ドゥラメンテが故障で早期に引退したように、産駒も足もとと気性難のリスクがつきまとうので、産駒はリスキーだと考える。一方のモーリスは7連勝、11連続連対したように、とにかくじょうぶでタフな馬だったから、産駒も長い競走生活を送ることができて、コスパのいい仔馬が多いように想像している。
それじゃあ、まとめると、ドゥラメンテ産駒は一発屋で、この2年間が勝負。モーリスは長く楽しめる安定志向と考えていいの?
そうだね。うまくまとめてくれたね。
最後に、ポストディープインパクト&キングカメハメハ時代を担う中心となる種牡馬は何?
その話は次回にとっておくことにするよ。
「【対談】ポストディープ&キンカメ世代を担う種牡馬は何か?(第2回)」終わり
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