(1)ハーツクライ産駒は皐月賞と相性が悪い
今年の皐月賞はディープインパクト産駒のコントレイルとハーツクライ産駒のサリオスとの因縁の対決という構図で前回、解説した。
それにしても、3歳春のクラシックでハーツクライ産駒の有力馬が登場、というのも珍しい。
晩成のハーツクライ産駒は古馬になってから本格化する。
それはジャスタウェイやシュヴァルグラン、リスグラシューなどの馬たちの名前を出せば強く頷(うなず)いてもらえるかもしれない。
ハーツクライ産駒は3歳春の時期でもダービーから活躍の蕾がほころび始める。
ワンアンドオンリーやウインバリアシオンといったダービー1・2着馬の名前を挙げれば論拠は十分だろう。
わずかに1か月ばかりダービーより早い皐月賞では、ハーツクライ産駒の優勝馬はいない。
ばかりか、ワンアンドオンリーの4着が最高というのは驚きだ。
対するディープインパクト産駒は2勝、2着3回。
皐月賞のパフォーマンスの差は歴然としている。
何よりハーツクライ産駒で皐月賞にまで駒を進めることができたのは過去10年間で10頭。
これはディープインパクト産駒の31頭に比べると3分の1。
ここまでハーツクライ産駒と皐月賞の相性の悪さを見れば、サリオス推しのファンは青ざめるに違いない。
(2)サリオスは従来のハーツクライの常識を覆す破格馬か
今までのハーツクライ産駒の皐月賞での惨状はわかった。
それでも、サリオスはこれまでのハーツクライ産駒とは違う。
だから、これまでのようなわけにはいかない。
サリオスのファンや出資者からは、このような身びいきの見解が出されるかもしれない。
この意見を手前味噌だと一笑に付すわけにはいかない。
サリオスは新馬勝ちからここまで3連勝。
晩成型のハーツクライ産駒で2歳に3連勝というのは、あまり見たことがない。
サリオスはこれまでのハーツクライ産駒とは規格外の、並外れた馬なのではないか。
名馬はそれまでのジンクスを塗り変えてゆく。
今までの常識では当てはまらない規格外の活躍をするからこそ、名馬と呼ばれるゆえんだ。
サリオスも、もしかしたら将来、名馬の冠号を被ることになるのでは?
そんな予感がふと頭をかすめる。
そこで、調べてみた。
中央競馬でこれまでに3連勝以上したハーツクライ産駒について、馬齢のいつの時期に連勝したか、というデータが以下のものである。
【ハーツクライ産駒連勝記録】
●4連勝
・ジャスタウェイ:4歳10月27日(G1天皇賞(秋))~5歳6月8日(G1安田記念)
・ロードレガリス:4歳10月26日(3歳以上1勝クラス)~5歳2月8日(アルデバランS(OP))
●3連勝
・シュヴァルグラン:3歳10月3日(3歳以上500万下)~3歳12月13日(オリオンS(1600万下)
・リスグラシュー:5歳6月23日(G1宝塚記念)~5歳12月22日(G1有馬記念)
・シュンドルボン:4歳8月9日(月岡温泉特別(500万下))~4歳10月25(甲斐路S(1600万下))
・ロードゴラッソ:3歳12月9日(3歳以上500万下)~4歳2月24日(伊丹S(1600下)
・オツウ:4歳3月22日(4歳以上500万下)~7月5日(かもめ島特別(1000万下))
・サリオス:2歳6月2日(2歳新馬)~2歳12月15日(G1朝日フューチュリティ)
・ナスノセイカン:4歳3月13日(4歳以上500万下)~4歳6月4日~(稲村ヶ崎特(1000万下))
・マスクトヒーロー:4歳9月16日(3歳以上500万下)~4歳12月8日(北総S(1600
・ベルゲンクライ:4歳12月21日(3歳以上500万下)~5歳1月24日(アレキサンドライトS(1600万下) )
・アドマイヤミヤビ:2歳9月24日(2歳未勝利)~3歳2月11日(G3デイリー杯クイーンC)
・ダイワズーム:3歳3月3日(3歳未勝利)~3歳4月29日(スイートピーS(OP))
・マイラプソディ:2歳7月7日(2歳新馬)~2歳11月23日(G3ラジオN杯京都2歳S)
合計14頭いた。
4連勝が2頭、3連勝が12頭。
(3)ハーツクライ産駒の育成・調教法が変わってきた?
ハーツクライ産駒が2歳で3連勝するなんて。
サリオスは果たして規格外の馬なのか。
答えはNOだ。
2歳で3連勝の記録はサリオスのほかに、今年の皐月賞に出走するマイラプソディ(これは皆さんもすぐに思いついただろう)とアドマイヤミヤビ(牝馬、2014年生まれ)がいる。
サリオス、マイラプソディ、マイヤミヤビ。
この3頭の共通点はともにハーツクライ産駒ということ以外にもうひとつある。
みなさんはお気づきになられただろうか?
それは、3頭とも「ノーザンファームしがらき」で調教を積んでいるということだ。
関東馬のサリオスは美浦の堀厩舎だが、堀師の方針で、ノーザンファーム天栄は使わずに関西馬御用達の「ノーザンファームしがらき」を外厩施設として活用している。
マイラプソディ、マイヤミヤビの2頭に限れば、両馬とも友道康夫厩舎だ。
ここから私の仮説を書かせてもらいます。
それまでハーツクライ産駒は3歳秋にごろから開花して、4歳の古馬になってから本格化するという成長曲線をたどった。
4連勝したジャスタウェイとロードレガリスが3歳10 月のほぼ同じ時期から連勝が始まったというのがこの事実を何より雄弁に物語る。
ところが晩成で2歳戦や皐月賞までの3歳クラシックに弱いとされたハーツクライ産駒の傾向が変わったのが、アドマイヤミヤビからだ。
この馬はG3デイリー杯クイーンカップに優勝して桜花賞に出走したが12着に敗れるも、続くオークスで3着の入賞を果たした。
ここで友道師はハーツクライ産駒の調教法を何かつかんだのだろう。
それが、去年の同じハーツクライ産駒マイラプソディの3連勝につながった。
あるいは、ハーツクライ産駒の早期育成のノウハウを「ノーザンファームしがらき」との協力で実践して、最初に成果を挙げたのがアドマイヤミヤビだ、という言い方の方が適切かもしれない。
晩成タイプと見られていた同じハーツクライ産駒のサリオスも3連勝で皐月賞の軌道に乗ったことを考え合わせると、ハーツクライ産駒が早期に始動できる素地を地ならししたのは、「ノーザンファームしがらき」での調教成果が大きかったに違いない。
そうなると、規格外はサリオスだけの問題ではない。要は馬の素質に加えて、外厩と調教師の連携が規格外をもたらした。
これまでハーツクライ産駒とは規格を組み替えて2歳戦から3歳春のクラシックにも通用するように、外厩「ノーザンファームしがらき」と厩舎で育成や調教で仕様を変えてきた。
このように推測してみたが、いかがだろうか?
そうなると、皐月賞で勝負がかりなのは、サリオスだけではなく、前走は負けたがマイラプソディも含めて考えてよさそうだ。
友道師はアドマイヤミヤビで果たせなかったハーツクライ産駒のクラシック制覇という目標を達成すべく、マイラプソディでリベンジしてくるに違いない。
ここまでの考察で皐月賞は2強ではなく、3強だということを確認できた。
このことは大きな収穫だ。
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