(1)はじめに
今回の後編は、馬見の最重要ポイントや現代競馬の本質を考えたうえでの1口馬主の戦略など、より深く掘り下げたうえで、一転して広い視点で日本競馬の現在について語っていただいた。
(2)1口馬主の選馬と想像力
●トンボの眼鏡
Mさんが選馬のときに一番ポイントと考えている点をお聞かせください。
【Mさん】
―――馬体、動き、雰囲気にプラスして、募集時期の段階から1年~3年先でどう成長しそうかの想像です。
想像しても答えは必ずしも一致しませんし、答えが出ない(怪我や引退もあります)ことも多数ありますが、想像すらことが楽しく、ワクワクします。
●トンボの眼鏡
先ほど(前編)も、Mさんは「想像」を強調されていましたね。実は、想像力がない私には、これが一番よくわかりません。自分は目に見えない、馬の未来の姿よりも、1歳募集時の数字に表れた体高を将来の成長ポテンシャルと考えています。馬の成長ポイントは馬のどこをどう見ればいいのでしょうか?
【Mさん】
―――私もこの問題が最も難しく思いますが、体高以外での産まれ月日や馬体全体の雰囲気(トモ高、キ高の抜け具合、歩様の推進力)などから想像します。私の出資馬で説明しますと、カイザーバル(社台F産、2013年生まれ、牝馬、父エンパイアメーカー、21戦5勝〈オープン〉)やランブリングアレー(社台F産、2016年生まれ、牝馬、父ディープインパクト、20戦6勝、中山牝馬S)は、想像より細めでのレースとなるも能力でカバーしてくれましたが、ハイエスティーム(社台F産、2019年生まれ、父ディープインパクト、5戦0勝)は想像よりも格段に細くでの成長が止まり非力さから結果を伴なっておりません。
●トンボの眼鏡
Mさんでも想像したものとは若干異なることがある。これは生き物としての馬の難しいところですよね。
(3)距離適性をはかって出資する
●トンボの眼鏡
Mさんの出資馬は サリオス(2020年)、エフフォーリア(2021年)、イクイノックス(2022年) とダービーを3年連続2着されています。これは予想通りの結果でしょうか。
【Mさん】
―――確かに日本ダービー3年連続2着ですが、これは狙ってのものではないですね。特にサリオスは、募集段階から2400mは想像してません。ですが、3歳春のクラシックまでは持てる能力で距離をがバー出来る現実があります。
●トンボの眼鏡
私もあの馬体で東京の2400mを持つとは思いませんでした。ダービー当日の馬体重は528kgです。過去20年で、500キロ以上の馬体重でダービーを優勝した馬は4頭いますが、そのうち最重がディープスカイの514kgです。さすがにサリオスを本命にはできませんでした。でも、2着にきたのには正直驚きました。本当にサリオスの持つポテンシャルの高さだと思います。
【Mさん】
―――エフフォーリアの適性距離としては、2400mを想像しました。イクイノックスは、2000mを中心の想像でしたが、父キタサンブラックからの恩恵は想像よりも期待はしました。
(4) マイルを勝てるスピードがある馬を選ぶ
●トンボの眼鏡
ダービーを3年連続というのは、私からすれば、これは偉業に近い実績に思えますが、Mさんとしては、この最高峰のレースを勝つことが至上命題であることでしょう。少し厳しい質問になりますが、この結果持つ意味をどう考えられていらっしゃいますか?
【Mさん】
―――質問いただきました結果の持つ意味としては、まだまだ毎年毎年想像を重ねて行きたいと思いますし、現代競馬においては、クラシックディスタンスの2400mの適性のみに拘る必要性は年々低くなっていると思います。選馬としての想像の手応えは、日本ダービーよりも、朝日杯FSでのサリオス・グレナディアガーズ・セリフォスになります。セリフォスは2着ですが、これはリリーバレー育成の結果が出てきている証拠かと。
●トンボの眼鏡
「 クラシックディスタンスの2400mの適性のみに拘る必要性は年々低くなっている 」とMさんは今、言われましたが、ここがご指摘いただいたなかで、一番重要な論点だと思います。これは、キングカメハメハ、ディープインパクトが亡くなったことが要因でしょうか?それとも馬場や騎手の騎乗技術、調教法の進化が背景でしょうか?
【Mさん】
―――ドバイ、香港でもマイルや1800mのG1のレースがあり、そこでも種牡馬を誕生させてます。また、日本競馬では環境や馬場が完全に整備されていることから、マイルを勝てるスピードがあれば残り600~800mまでの展開や余力の残し方次第で2400mは勝負になります。
●トンボの眼鏡
これから1口馬主で当たり馬を見つけるには、特にマイルを勝てるスピードがある馬をチョイスすることだ。今日のMさんの言葉から、そう自分的に解釈しました。これは極めて重要なポイントになるかと思います。ディープインパクト産駒はダービー、オークス、ジャパンカップのクラシックディスタンスのG1レースを多く勝っていますが、同じように安田記念やマイルチャンピオンシップもよく勝っています。 マイルを 強い勝ち方をする馬、というイメージで血統や馬体を当てはめて選ぶ、というのが1口馬主で成功する秘訣のような気がします。
(5)ダート三冠創設と海外遠征への展望
●トンボの眼鏡
「 マイルを勝てるスピードがある馬を選ぶ 」というMさんの言われた格言は、主に芝馬に当てはまることなので、今年私が出資することになったララベルの21のようなダート馬はまた別の選馬の基準があるのでしょうが。
【Mさん】
―――ダートに関しては、日本での地方のダート3冠が発表されたり、サウジの競馬、更にはアメリカ競馬へのチャレンジが増加傾向が想像されますので、そこへの出資はコルドンルージュ(2019年生まれ、牝馬、サンデーサラブレッド所属、父American Pharoah、3戦1勝)やルコルセール(2018年産、牡馬、G1サラブレッドクラブ所属、父ロードカナロア、10戦3勝)です。引き続き、ダートへの愛馬強化は意識していきたいと思います。
●トンボの眼鏡
いろいろ勉強になることをたくさん話してくださってありがとうございました。Mさんのご指摘をこれから何度も反芻しながら馬選びの基本をしっかりと身に着けたいと思います。
【Mさん】
―――回答させていただきながら、選馬とは自分の中では「想像を楽しむこと」の現時点結論の感じの回答が見いだされました。この想像を苦にならずにほぼ365日を費やす想いは持ち合わせていることが、少しずつ結果に出てきているなら、引き続き継続したいですし、継続しているとこれまた想像しております。
●トンボの眼鏡
今日は、日曜日のお休みのところを私のために貴重な時間を割いてくださり、ありがとうございました。
【Mさん】
いえ、こちらこそ。失礼します。
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2回にわたってMさんへのインタビューを掲載してきました。改めて、お時間をとってくださったMさんに御礼申し上げます。
Mさんのお話を聞いていて、よくわった部分( マイルを勝てるスピードがある馬を選ぶ )となかなかイメージが湧かない部分(想像力を働かせる話)が正直言ってありました。
1口馬主の選馬というのは、普遍的で伝達可能な情報(測尺や血統)に加えて、先天的な感性に基づく直感と経験によって培われた職人的な要素の両方が必要だと改めて思いました。
情報はデータの取り方を工夫するだけで新しい発見をすることができますが、感性を磨くには競馬場や牧場に足しげく通って、なるべく馬を見る機会を増やすこと以外はありません。
ただ、私の場合は、ボーッとしていて、馬を見ているようで、ぜんぜん違うところを見てしまうかもしれません。
ともあれ、皆さまこの記事を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
今後の選馬の参考になれば幸いです。
「【第二のソングライン発掘プロジェクト/サンデーサイレンスのクロス完全攻略法】」